2020年11月5日木曜日

静夜思

 中2のKくんの担任の先生から、メモをもらいました。「国語で漢詩を勉強していて、『Kくんが中国語で詠む声がとてもきれい』とクラスの子たちからいわれて、とても嬉しそうでした」

国語の先生が、Kくんに教科書の漢詩を中国語で詠んでもらい、それを録音して授業でみんなに聞かせてくれたようです。その日の子どもたちのノートの多くに、Kくんの朗読についての感想が寄せられたそうです。その中には、「普段、普通に日本語でしゃべっちょんけど、実は中国語ができるって初めて知った。すごい」「日本語できるようになるまで大変だったやろな」そんな声もあったそうです。

それを知って、こみあげてくるものがありました。Kくんと出会ったのは小5の頃、日本語が全然わかりませんでしたが、明るくてやんちゃで人懐っこいKくんは、おしゃべりが上手になるのが早かったと思います。一方で勉強は好きじゃないと言っていつまでもひらがなカタカナを覚えたがらなくて。国に一時帰国した後は、日本のほうがきれいで絶対いいといい、故郷に否定的な姿もありました。

母語が干渉している日本語の間違いを指摘すると、驚いたような不思議そうな顔をするKくん。「アイデンティティ」という概念や言葉はまだ知らないかもしれませんが、今回の漢詩で、他者から母文化のことで尊敬のまなざしを受け、Kくんの心を変容をもたらした、そう感じました。

これからも、ふたつの言語、ふたつの文化に生きるKくんが、それらをプラスのアイデンティティとしていけるよう、できることを工夫しながら見守っていきたいです。こんな活動をしてくれてステキな先生たちに恵まれたこともよかったね。


「先生に俺の好きな詞、詠んじゃんな。(詠んであげるね」

李白の静夜思、秋の夜更けに月を眺め、故郷をしのぶ詞。Kくんの中国語、美しいね。沁みたよ。